アーカイブ: 2019年4月20日

プロセス技術の詳細(その2)

○取り組んだプロセス技術の詳細(その2)

 携帯電話用積層LTCC電子部品を作り始めると、当然ながら不良が発生し、その都度、発生原因の特定及び対策を個別のPDCAで進めて行くことを行いました。

 この発生原因の特定、つまり本質原因・根本原因の特定には、如何に手の内に分析・解析手段=装置=ツールを持っていて、更に、それぞれの解析手段に適当な(=最も有益な情報が得られる)試料作りのスキルや、分析ノウハウの知見を持っていることが重要であることを実感しました。以下2例を例示しました。

例1)

 積層部品はグリーンシートと言われるセラミックシートに内部電極パターンを形成し、積層した構造を持っていますが、積層後は、内部電極パターンが所望とする形状に欠陥なく形成されているかどうかは、外部からは当然分かりません。出荷前の最終の電気的な検査による不良品が発生しても、その内部構造の欠陥については、表面から少しずつ研磨しながら、研磨面を観察しても、実際は良くわからず、不良品の電気的な解析から、「たぶん」ここに欠陥があったのだろう、程度の結論しか導くことができませんでした。ちょうど90年代後半に電子部品の解析に適した「マイクロX線透視装置」が、日本やドイツのメーカから発売され始め、早速デモ機での評価を試みました。透視像には、内部電極の欠陥の位置、形態が「まざまざと」写しださされていました。開発には不可欠の装置と判断し、社内の稟議を通して当時数千万円で購入してもらいました。

 装置導入後に、多数の半製品、製品を評価してくると、不良としては顕在化していないが、「不良予備軍」のような形態も観察できるようになり、顕在化する前に対策(=工程条件や許容範囲の見直しなど)を講じられたように考えています。

 尚、この「マイクロX線透視装置」は、顧客にて行われる部品の半田付けにおいて、半田が外部(端子)電極に弾くことなく「濡れる」特性(半田濡れ性)の評価においても有効でした。つまり、半田濡れ性が悪いと、半田内部にボイド(空孔)が発生する現象と相関があって、ボイドが明確に観察できる解析手段でした。

例2)

 走査型電子顕微鏡(SEM)及び付随した元素分析装置(EDXまたはEDS)は、近年は低価格化も進み、比較的一般的な分析・解析装置となっているように感じます。

 SEM/EDXは、金属など導電体では前処理無しで、セラミックスなど不導体でもAu/Pdなどを表面に蒸着するのみで、容易に観察することができて、倍率も数十倍から1万倍程度に対応できて、元素分析も点や面で容易にできる点で、大変有用な装置です。

 しかしながら、電子部品での不良解析、特に、セラミックス/外部電極下地/Niめっき/Snめっき/半田の各界面を観察しようとすると、これらの界面が観察できる部品断面を研磨によって露出させる必要があります。具体的には、エポキシ樹脂などに埋め込んで硬化させた後、回転する研磨盤などで、研磨し、最終的には、金属組織が観察できる程度に鏡面に仕上げる必要があります。しかし、硬いセラミックスと柔らかい半田やエポキシ樹脂を、ほぼ同一面に仕上げるには、研磨ノウハウを持っていないと目的とする観察ができないこととなります。

 装置は容易に操作できるが、本当に欲しい情報を得るには、その試料作りのノウハウが不可欠と感じます。また、EDXについても、その原理から、主成分の元素分析には有効ですが、微量成分は得意ではないため、EPMA(WDX)など他の(原理が異なる)分析手段と合わせた解析が必要となります。

 更にSEMでは、電子の加速電圧で、見えている像が真の表面に近いところ(低電圧)から、少し内部に入ったところ(高電圧)と、見え方がずいぶんと変わる試料があります。2次電子像と反射電子像の違いもしっかりと見ることが必要でしょう。

 

プロセス技術の詳細(その1)

開業の挨拶からずいぶんと経ちましたが、今後は真面目に適宜UPしていく予定です。
私の経歴(技術・スキル)の詳細について、順次記載していきます。
○取り組んだプロセス技術の詳細(その1)
技術分野は、いわゆるLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics:低温同時焼成セラミックス)呼ばれるものです。
具体的には内部電極材をAgとして900℃で内分電極と誘電体(ガラスセラミックス)を同時焼成した積層基板です。
携帯電話普及期(90年代半ば、「2G」の時代に相当。)に、小型化のため、高周波関係の部品(トランス、フィルタ等)が、従来、誘電体に導線を巻回した形態や、セラミック白基板(アルミナ等の焼成基板)の表裏に導電パターンを形成した形態から、セラミック積層部品への転換が進みました。
<高周波での損失∝導電材料の電気抵抗>であるため、内部電極材(配線材)はAgまたはCuである必要があって、そのため、焼成温度が900℃(Ag)または1000℃(Cu)で、セラミック(誘電体)材料と内部電極材料を同時一体焼成した積層部品が普及していきました。
(当初、某顧客向けに従来形態(誘電体に導線を巻回した形態)のトランス部品を供給していたことから、積層部品への開発要求があって、これに対応したのが第一歩であったと記憶しています。)

以下Ag配線積層部品の概要です。
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誘電体材料:アルミナ+ガラス等  
内部電極材料:Ag  
焼成温度   :900℃    
誘電材一層厚さ:数10μm~200μm 
内部電極厚さ :数μm~20μm   
焼成雰囲気  :大気    
サイズ(mm):当初3.2*1.6*1.0、その後6.7*5.0*1.0の10個*15個程度の多数個基板形状
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内部配線材を、以下AgかCu、どちらを選択するかですが、相当議論しました。
・Ag:金属価格高い。大気焼成可能。焼成温度:900℃程度。
・Cu:安い。非酸化性雰囲気焼成要。焼成温度:1000℃程度。
結論は、
・当時900℃で焼成可能な材料を有していたこと。
・Cuの「非酸化性雰囲気」での必要なガス代が、金属価格の差を考慮しても、想定される生産量では、相当のコスト負担となること。
から、Agを採用した経緯があります。
その後、世界の携帯電話メーカ向けに、種々の内部配線構造のLTCC積層部品を供給いたしましたが、比較的順調に生産量を増やせていけたのは、「Agの採用及び大気焼成」を選択したことも大きな理由と考えています。