アーカイブ: 2020年8月11日

特許の重要性(7)【後発でも勝つために④調査結果に基づいた自社出願の推進①】

前項において、先行他社特許への対策の基本としては、既に存在する登録特許は回避し、減縮できる特許へはできるだけの手段を講じることであって、限られた対応しかできない。

後発であっても勝つためには、先行他社から疎ましく思えるような自社出願の推進が必要である。

 

〇将来のライセンス交渉に備える

前項で無効資料調査について述べたが、通常、先行他社は有効かつ重要な特許を1件のみではなくて、複数件の有していることが多い。また、ある特許1件に対して、無効化できる可能性が高い資料を抽出できても、全ての有効かつ重要な特許に対して、有効な無効資料を抽出するには不可能に近い。更には、無効審判の手続きを開始して、たとえ無効と判断されても、裁判も含めた最終的な結論がでるまでは、その特許は有効である。

従って、後発が事業を行うには、先行他社とのライセンス交渉により、現在公開段階の特許も含めて複数特許実施許諾を受ける交渉が現実的と考えられる。

後発であっても、ライセンス交渉を有利に進めるためには、自社出願を推進して、先行他社から、気になる特許、できれば疎ましく感じる、つまり、先行他社から権利化されると困る特許の出願を目指すべきと考える。

少なくとも、先行他社が気になる特許を複数件出願しておれば、一方的な実施許諾契約ではなく、クロスライセンス契約へと有利な立場に移行することも不可能ではない。

ここで、実施許諾等を受ける場合の特許の特定に関して、登録特許の特許番号での規定も可能であるが、その場合、契約後、新たに実施許諾してもらいたい特許が出現した際、手続きが煩雑となるおそれがある。従って、関連する特許について、過去から近い将来を含めた出願日または優先日の範囲で複数の特許を特定することによって、双方にとって後日、新たな懸案事項の発生が抑制できると考える。つまり、新たに出願される特許、更には登録される特許への評価及び交渉が必要となくなる。

特許の重要性(6)【後発でも勝つために③特許調査の目的③】

Ⅲ.自社(予定の)技術・製品の先行他社登録特許の無効資料調査

登録特許が無効である=新規性・進歩性が無い、と主張可能な、文献を抽出する調査であって、無効審判を想定したものである。しかしながら、有効な文献を抽出することは困難であることが多い。

少なくとも、データベース検索が容易な内外の特許文献の検索でのヒットは期待できないと考えた方が良い。

有効は文献を抽出できる可能性がある調査として、先行他社発明者の学術論文は当然チェックした後、以下2項程度は、しっかりと調査すべきと考える。

(1)先行他社の(キーパーソン)発明者・同僚・関係者の学位論文(国立国会図書館に所蔵)

(2)先行他社の「競合」におけるキーパーソンの学位論文

尚、特許異議申立制度が2015年に再開しているが、特許が取り消しされる割合は10%程度であって、無効審判に比べて手続きのハードルも低いが、取り消し率も低い。

筆者も数件を申立したが、全て技術的範囲は減縮されず、そのまま維持された経験のみである。

異議申立するかどうかは、代理人(特許事務所)等含めた検討を行って、「ダメ元」覚悟での対応にならざるを得ないのが実際と感じる。。

特許の重要性(5)【後発でも勝つために②特許調査の目的②】

Ⅱ.自社(予定の)技術・製品が先行他社の権利侵害していないかの調査(侵害予防調査)

前項では、「事業者としての先行他社」を特許出願傾向から捉えることと解釈できる。本項では、「開発予定の自社製品・技術」が具体的に明らかになった時点で行われる調査であって、抽出した先行他社の特許が実質的に登録特許であるかどうかで区分して、以下のような検討、判断が行われる。

(1)将来障害となる可能性がある場合(未審査公開特許、審査中の公開特許)

①回避可能性の検討

②情報提供による無害化

(2)障害となる場合(登録特許、特許査定された特許)

①回避可能性の検討

②無効化可能性の検討(将来ライセンス交渉要否の検討)

それぞれについて、以下に述べる。

 

(1)将来障害となる可能性がある場合

ここで、将来とは、その時点で特許の技術的範囲が確定していない場合であって、具体的には公開段階の特許における「特許請求の範囲」から侵害/非侵害判断する。

自社の技術・製品が、将来先行他社の「特許請求の範囲」に入ってしまう可能性がある場合、現実的には前記①回避可能性の検討と、②情報提供による無害化は、同時進行的に検討されることが多い。①は、主に技術者によって検討され、他方②は、特許担当者によって検討される。

②の「情報提供」については、特定された公開特許に対して、新規性・進歩性を有していないと主張可能な特許文献を新たに調査して、特許庁に書面を提出する手続きである。数年以上前では、審査請求されてから実際の審査開始まで比較的長期間であったため、審査請求後の調査開始で時間的余裕があったが、最近は審査請求後数か月で審査結果が明らかとなることが多い。従って、公開特許を抽出した時点で、調査を開始して提出書面を準備しておいて、審査請求された時点で、書面を提出することが望ましい。

また、「情報提供」は、前述の外国特許(各国ファミリ特許という)の内、少なくとも中国や米国では有効であって、日本での審査が最も早く進むとは限らず、各国での審査進捗を監視しながらの対応が必要である。

実務では、回避の現実性と、特許の手続きの状況を監視しながら、外国含めた各国での進捗があった時点で、適宜判断をしていくことが必要である。

 

(2)障害となる場合(登録特許、特許査定された特許)

登録特許への対応は現実的にはかなり限定される。

①回避可能性の検討

回避できるのであれば、回避することが最善と考える。更には、技術的範囲の解釈に曖昧さが疑われる余地があるのであれば、弁理士や弁護士に鑑定書を作成してもらい、後の係争に備えることも有効である。

②無効化可能性の検討(将来ライセンス交渉要否の検討)

本検討は、実質的に次項と同様のため次項にて述べる。

特許の重要性(4)【後発でも勝つために①特許調査の目的①】

ひと月前に特許について、3回記してきました。今回から、少し各論について述べます。

 

後発で新規市場に参入する場合、先行他社の特許調査は不可欠である。後発であることに焦点を当てて、特許調査についての概要を述べる。更に、後発であっても勝てる自社出願について述べる。

 

<後発における特許調査の目的>

後発における特許調査の目的として、主に次の3つが挙げられる。

Ⅰ.先行他社の出願傾向の把握(特許情報の抽出)

Ⅱ.自社(予定の)技術・製品が先行他社の権利侵害調査(侵害予防調査)

Ⅲ.自社(予定の)技術・製品の先行他社登録特許の無効資料調査

調査着手の前に、先ずは、自社の事業計画・製品化の方向性等の明確化が必要である。そうでないと、調査の進捗で抽出される特許に対して、回避可能な(回避すべき)特許であるか、または、実施許諾が必要な特許であるか、更には、無効化すべき特許であるかの判断が困難となるためである。

上記3つについて、以下に述べる。

 

Ⅰ.先行他社の出願傾向の把握(特許情報の抽出)

先行する他社の特定は、営業情報等から、数社程度に絞られるのが通常である。仮に3社が先行他社とすると、各社毎に「出願人」での絞りこみ検索を行った後、「発明名」や「特許分類(IPC分類)」に注目して、関係する製品・技術分野での絞り込み検索を行う。

ここで、「出願人」である会社名の変更(合併や吸収を含む)により抽出されないことがある。旧社名も含めた検索が必要である。

(通常、権利が維持されている登録特許は、特許権者によって名義変更がされるが、権利化されなかった特許は、名義変更はなされない。)

続いて、先行各社における関係製品・技術に関する特許を抽出された後、以下の分析が有効である。

①出願件数の推移

②発明者(数)の推移

③もの・製造方法・製造設備に注目

④課題の推移

⑤各特許の重要度の推測

それぞれについて、以下に述べる。

(1)出願件数の推移

先行他社の1社(A社とする)の年度当たりの出願数の推移を知ることで、開発の着手時期や、出願件数が増加傾向であるのか、それともピークは過ぎて減少傾向であるかによって、A社における該当製品・技術の推進する姿勢を推し量ることができる。また、A社の全出願件数との比較することによって該当製品の社内での重要度も推定でできる。

(2)発明者(数)の推移

発明(公開公報)の内容と、発明者との関連を見ていくと、発明者Pは設計者、発明者Qは材料開発者、発明者Rはプロセス開発者、というような推測が可能となり、それぞれのキーパーソンが誰で、関連する他の発明者が何人いるか、つまり、出願の時期によって、開発の陣容が概ね想像できることが多い。更には、発明者の住所(事業所の住所)によって、研究所に所属している発明者がいるのか、どこに所在する事業所(工場)で開発・製造がなされているか、等も推測ができる。

但し、最近の傾向として、前記のような推測(特定)ができないようにするため、発明者の住所を会社本社の住所に統一する出願人も多くなっているに感じる。

発明者数と前記出願件数の関係に注目することで、単に所属する発明者(技術者)の数が増えて件数が増えているのか、それとも出願の重点化によって、増えているのか等の情報も得られる。

(3)特許の種類

特許は、もの、製造方法、方法、の3種類があるが、最も顕現性が高い(権利範囲の外延が明確、曖昧さが少ない)製品の構成要件による「もの」の特許の出願が優先される傾向がある。

他方、方法特許はその権利範囲が狭いこともあって、出願は少ないと感じる。方法であっても、製造の一工程とすることによって、製造方法特許としての出願がなされることが多い。

製造方法の特許では、(その製造方法によって製造された「もの」も権利範囲に含まれるものであるが、)明細書中に製造条件などを少なくとも、「もの」の特許以上に「実施可能要件」を開示する必要があって、発明が完成した時点で即出願することは少なく、社内での議論によって、出願せずに秘匿することを含めて、出願内容(どこまで開示するか)や出願時期を検討されることが多いのではなかろうか。

つまり、製造方法特許が出願される段階では、後発が先に出願することによって障害となる特許が成立(登録)されることへの対策として適時出願されていると考えるべきであろう。

また、「もの」ではあるが製造装置についても、製造方法と類似の扱いがされることが多い。

従って、特許が「もの」「製造方法」「製造設備」いずれに属してして、その件数や割合の推移を把握することは有用と考えられる。

(4)課題の推移

明細書中に記載されている課題は、設計に関するもの、製造や品質に関するもの、等によって、異なるが、それぞれについて、開発の進捗や、顧客のニーズの変化によって、推移していくものである。

また、先行各社によって、課題の捉え方は異なることが多く、各社の出願の特徴の把握することができる。

(5)各特許の重要度の推測

先行他社の出願特許の内、以下の情報を注目することで、それぞれの特許の重要度を推し量ることができる。

①審査請求時期

審査請求期限は、出願から3年であるが、重要と考える特許、権利化を急ぎたい特許では、出願後、比較的早く審査請求される傾向がある。

②優先権主張による外国特許出願の状況

外国出願は権利化までの費用が多額となり、また、その権利の維持年金も高いため、外国出願される特許は、比較的重要な特許であると解釈できる。

外国出願での出願国として、一般に、市場がある国(輸出先)、自社製造拠点(予定)がある国(製造国)、有力な競合が存在する国、とすることが多い。但し、最近はPCT出願が多いため、実際の出願国(国内移行国という)が明らかになるのは、優先日から30か月程後となってしまうが、先行他社の外国事業の方向性を把握することができる。(尚、ヨーロッパの場合は、欧州特許庁で特許査定後に移行国を選定するため更に時間を要する。)

③拒絶査定不服審判請求時の分割出願の状況

特許庁の審査の結果、拒絶理由通知を受けた後、特許請求の範囲を減縮した(狭めた)手続き補正書(及び意見書)を提出しても審査官の心証が覆らない場合、拒絶査定となるが、どうしても権利化したい場合は、「拒絶査定不服審判」請求を行うことができる。しかし、この審判で拒絶されると後がなくなる(あきらめるしかない)ため、前記拒絶査定不服審判請求と同時に、新たに分割出願することで権利化のチャンスを維持することができる。

つまり、このような状況に至っている特許は重要特許と考えられる。

 

以上述べた通り、先行他社の出願~審判の状況や記載の内容を詳細に把握することで、その出願さている製品・技術の方向性や重要性を知ることでき、また、開発陣容の推移などを推測ができることが多い。

新製品QCD(17)【電子部品のクリーン環境⑥クリーン化の推進<作業者への教育>】

クリーンルームでの経験の無い作業者にとっては、作業服=ユニホームが変わっただけ、の認識があることが多い。

できれば、配属されてきた際の導入教育で、開発当初の塵埃や異物混入による不良品例を示して、ユニホームが変わっただけではなくて、このようなクリーンウェア及びクリーンルーム(ブース)での作業によって、これらが原因となる不良を抑制することができる、ことをレクチャーすることが肝心である。

また、前述したようにクリーンウェアの着用とクリーンルーム(ブース)での作業だけで、不良品の発生を抑制できるのではなくて、塵埃・異物を「持ち込む犯人」は、作業者自身であることが多く、自らの頭髪、眉毛、そして、クリーンウェアの下の衣服からの毛羽などが起因となっている、という現実を知ってもらい、実感して、実践してもらうことが重要である。

 

以上、私の新規電子部品を開発から量産化した経験に基づいて、クリーン環境に注目して述べてきました。

新製品QCD(16)【電子部品のクリーン環境⑤クリーン化の推進<クリーンブースからクリーンルームへの移行>】

幸いにも生産量(受注量)の増加、または、類似製品が増えると、対象となる工程全てをクリーンルームで行うこととなる。

 

〇全く異なるエアの流れへの対応

実体顕微鏡レベルで検知可能な塵埃・異物の抑制であれば、クリーンルームの仕様として、HEPAフィルタを備えて、正圧を確保するため、ルーム外部からエアを導入する機能を備えたパッケージエアコンで実現できる。

つまり、それぞれのクリーンブースではエアの流れが同様であったことに対して、エア流量(風速)や方向が全く異なる場所での生産となる。

従って、前記エアの流量と方向を考慮して、作業場所や設備のレイアウトの「再」適正化を行う必要がある。特に、パッケージエアコンからのエア吹き出し量が大きくなる(風速が速い)ので、その上下左右方向含めて吹き出す方向の検討が必要である。

更にパッケージエアコンの近傍の風速は比較的速くなるため、近傍の設備においては、風速の弊害が出ないようにする工夫を要する。

 

〇温度・湿度の制御

パッケージエアコンによるクリーンルームに移行することで、室温や湿度の制御が容易となる。

湿度制御は、温度のみ制御できるパッケージエアコンに比べて高額であるが、

年間を通して、品質を安定した生産を行うには、湿度制御可能な仕様にすべきである。

 

〇減産への対応

電子部品製造において、急激な減産要求(生産調整)を一定頻度で経験することが多いように感じる。

これに備えて、複数あるラインの一部を停止させる場合、フレキシブルに空間を分けて、その停止ラインに応じたパッケージエアコンも止めることが可能なレイアウト設計が好ましいと考える。

新製品QCD(15)【電子部品のクリーン環境④クリーン化の推進<クリーン度の評価方法・管理方法>】

〇評価方法

一般に、パーティクルカウンターでの数値化は容易であるが、実際の電子部品での製造現場では、クリーンブース・クリーンルームとして機能しているかの確認程度と考えて良い。

より現実的な評価について述べる。例えば、ある設備上や作業机の端部に、清浄な表面を暴露した状態で、スライドガラスやシャーレを設置し、一定期間、通常の作業を行なった後、実顕微鏡で観察すると、想像以上の塵埃や異物を確認することができる。その形態や、単位面積当たりの数を評価することが有用である。更に、塵埃や異物を、SEM/EDSで、観察・分析することで、形態や組成によって、その発生源を特定することもできる。

パーティクルカウンターでの数値よりも、製品不良に至る可能性のある塵埃・異物を特定して、その発生を抑制することが可能となる。また、既に述べたように、塵埃等が、実際の製品構成物にたどり着けないような工夫、製品構成物の保管方法の適正化、ハンドリング方法の適正化、近傍のエアの流れに基づいた作業者と製品構成物との相対位置の適正化等を検討すると良い。

 

〇管理方法

上記評価方法に基づいて、一定期間ごと継続的に評価することで、改善すべき作業やレイアウトが特定可能となる。

また、クリーンブースを間欠運転している場合、その影響を評価し、運転プロファイルの適正化を図ることができる。

新製品QCD(14)【電子部品のクリーン環境③クリーン化の推進<クリーンブースの導入>】

〇導入工程の優先順位の決定

クリーン化が比較的重要な工程・作業を決定する。ここでは、担当の技術者や作業者によって、塵埃・異物が混入すると、どういった不具合が生じるかを議論して、合意の上で、優先順位を決めていくことが望ましい。

(このような現場を含めた議論は、小集団活動での品質向上などへの展開が容易となる。)

例えば、セラミック積層電子部品であれば、シート成形前のスラリーに異物が混入すると、そのまま製品内部に留まってしまい焼成後に異なる色調を呈する、のような議論を進める。

議論の結果、以下3工程が最も高い優先順位の工程との結論に達したとする。

・セラミックスラリー作製工程

・セラミックシート成形工程

・スクリーン印刷工程

それぞれの設備と作業スペースにクリーンブースで覆うことになるが、一般にクリーンブースは、天井中央部にエアの吹き出し口があって、また、ブースの周囲四方を覆うカーテン状の透明シートの下部の隙間からエアが排出される構造となっている。つまり、(何も障害物が無ければ)ブース天井中央から周囲下部の隙間に、エアが流れている=風が吹いている構造となっている。

上記のエアの流れを考慮して、作業者の位置・設備のレイアウトなどを適正化することが必要である。動きがある作業者の頭部からの毛髪が、エアの流れによって、製品構成物となるスラリーやシートに落下、付着することがないような作業内容やレイアウトを検討する必要がある。

 

〇生産設備での工夫

エアの流れを検討すると、生産設備への工夫も有効であって、適時適用していくことが良い。以下に例示する。

・シート成形機の乾燥前のスラリーで暴露されるところは、上部の近傍に透明樹脂板等で、塵埃が落下を抑制する。

・スクリーン印刷機でも、被印刷物のシートや、ペーストに、塵埃が落下しないように同様に透明樹脂板を適宜設ける。

 

〇運転と運用

原則は、クリーンブースは、連続運転を行うべきである。しかしながら、現実問題として電気代等を考慮すると、作業時の前、例えば1時間前から運転を開始し、作業前の設備の清掃、作業場の清掃、などをやるべき準備事項を決定して、必ず実行する、作業記録をつける、等が実際的である。

 

〇クリーンウェア・クリーンブーツ

クリーンブース内での作業はクリーンウェアで行うことを徹底する。また、当然であるがクリーンウェアの保管場所もクリーンブース内である。

(1)クリーンウェア等の仕様

足、上下のつなぎ、頭部まで、一体の仕様が望ましい。また、静電気対策された仕様が良い。

クリーンブーツは、作業でアルコール等有機溶媒を扱う場合は、それに適したものを選択する。重量物落下の可能性があれば、安全靴の仕様を選ぶ。

(2)クリーンフェアの洗濯(クリーニング)

新規に洗濯機を購入して、クリーンウェア専用に使うことも可能であるが、洗濯による生地の痛みや、クリーンな乾燥場所の確保等、検討すべき事案が発生する。

従って、クリーンウェア洗濯の実績のある専門業者に依頼することが望ましい。

クリーニングの頻度であるが、各工程での作業内容に応じて、洗濯(交換)頻度を決めて運用すると良い。

 

〇クリーンブース内部のクリーン度向上

クリーンブース導入の当初からの実施でやるべきことは、「段ボールの排除」と「クッション等備える(塵埃が多く発生する)椅子の撤去」である。

次が、指示書や記録での「紙」の排除である。指示書等はラミネートや、チャック付きポリ袋に入れての運用とすべきである。記録で紙が必要ならば、「クリーンルーム仕様」で「ボールペン」を徹底する。

シャープペンシル含めて鉛筆は、芯の材質も塵埃であるが、それよりも「折れた芯」の混入がより問題となる。

新製品QCD(13)【電子部品のクリーン環境②クリーン化の推進<クリーンブース導入前>】

クリーン化の本質を理解した上で、以下の手順で推進することが現実的と考える。 いきなりクリーン環境が必要な工程全てをクリーンルームで行うことは稀のケースと思われ、必要最小限な工程をクリーンブースで行うことが一般的と考える。

<クリーンブース導入前>

〇従来製品工場との差別化

電子部品等を生産した経験のない工場では、工場建屋内と外で、いずれも土足であるところも多いのではなかろうか。

・先ずは、工場建屋内に入ったところで、室内履きに履き替える仕組みとする。「電子部品製造工場にて土足厳禁」の表示も有効である。

・室内履きは、できれば塵埃が発生しにくく、汚れが目立つ白色系を採用する。(クリーンルーム仕様でなくてもOK。)

・床面塗装を、塵埃フリー仕様に変更して塗装する。

・従来からのエアコンのフィルタ等、できれば内部を清掃する。

上記について、次の段階として、工程の一部にクリーンブースを導入することになるが、クリーンブースの吸気口から周囲の空気を入れ込むため、周囲の空気が清浄であればあるほど、吸気口のフィルタの交換頻度等を減らすことができて有効である。

 

〇エア・窒素の供給配管のフィルタ設置等

塵埃や異物の無いエアや窒素が供給されるように、少なくとも供給口の直前に必要なフィルタ等を設置する。

更に、できれば後述するように、エアについては、塵埃とは関係無いが、製品の品質安定・維持のため、露点管理されたエアを供給できるようにする。

 

〇クリーンブースを想定した工程・スペースの差別化

当初からクリーンブースを複数台揃えて生産を開始することは、実際はコストとタイミングの問題で困難なことが多い。近い将来、クリーンブース導入されることを想定して、導電性有機フィルム(シート)で、工程・設備及びスペースに覆い囲みを設けて、スポットクーラー等で、囲みの中にできるだけ塵埃の少ない空気を送り込んで、内部が正圧(プラス圧力)になるような空間を設ける。

このスペースでは、クリーンウェア・クリーンシューズを着用して作業する。クリーンウェア等は、スペース内に置き場所を設定する。

新製品QCD(12)【電子部品のクリーン環境①クリーン環境必要性の本質の理解】

クリーン環境について、少し述べてきましたが、現場レベル含めて、記していきます。

 

セラミック電子部品では、部品の内部に配線等が存在するため、塵埃や異物によって配線に欠陥を生じさせ、その結果、製品の特性劣化に至る。その対策として、クリーン環境での生産が必要となるが、費用対効果を考慮し、塵埃等が起因の不良品発生の抑制を目指した実践的なクリーン化についての考え方を述べる。

 

〇「形」からの導入の限界

携帯電話用のセラミック積層部品に新規参入し、顧客への製品生産を開始した。「文献等の情報に基づいて」セラミックシート成形工程やスクリーン印刷工程等、クリーン環境が必要とされる工程にはクリーンブースを導入して、作業者にはクリーンウェアを着用させて生産を開始した。しかしながら、最終検査にて、内部配線の断線と思われる不良が、ある一定頻度で発生していた。断線不良品を断面研磨などによって、その断線箇所を特定したところ、同じロットでの不良品は、全て同様の箇所での断線であること判明した。更に、X線透視装置で観察した結果、断線の形態も同様であることが判明した。結論として、スクリーン印刷時に、被印刷体のセラミックグリーンシート上に、髪の毛等の細長い異物が付着し、最初の印刷で、印刷スクリーンのシート接触面の印刷パターン部分に異物が張り付き、印刷スクリーンの導電パターンの一部をマスキングする作用によって、同一の箇所での断線が発生していたと推測できた。

上記の経験で得た教訓は、通常の環境よりクリーンな環境での作業という「形」で入るのでは無くて、不良品・不具合品を発生させないために、クリーンな環境が必要であって、塵埃や異物による不良品の抑制のためには、与えられたクリーン環境下での作業を行うだけでは不十分であるということであった。

 

〇クリーン化の本質(目的)

以上述べた通り、クリーン化の本質=目的は、クリーンルームやクリーンウェアを導入適用することではなくて、塵埃等による製品不良の低減・抑制である。従って、製造工程に、塵埃や異物をできるだけ持ち込まないようにして、直接、製品への影響を無くする、少なくとも低減できるかということである。

当然ながら、クリーンルームやクリーンブース等、クリーン環境を構築し、維持するには新たなコストが発生する。費用対効果を常に意識しながら環境を整備し、推進していく必要がある。更には、生産量の増減(変動)に対処できるようなシステムを目指すことが望ましい。

より具体的には、「楽観的な将来の生産量を前提に、」必要と思われる工程・設備、作業スペースをクリーンルーム仕様になるように従来工場の一部を改築・改造すると、その初期投資、及び常にルーム内の正圧(空気が部屋から外に流れる)を維持するエアコンの導入費用や運転費用は相当の金額となる。将来有望な新製品であっても、順調に立ち上がる見込みは決して高くはなく、前記費用の負担は事業の継続に大きく影響する。