アーカイブ: 2020年7月16日

新製品QCD(2)【新製品は実績製品で作る②】

前回は、新製品開発での、外部から購入する素原料紛等の材料、そして導入する製造設備の内、

「外部から購入する原料等の材料」について記しました。

今回は、「導入する製造設備・装置」についてです。

この場合も、材料と、考え方はほぼ同様ですが、具体的には以下の通りです。

つまり、

1)先行する他社、同業他社への導入実績の豊富な装置・設備メーカを、インターネット情報や、業界誌から抽出する。

2)実際に営業担当者と話をして、自社で予定している製造プロセスでの豊富な実績を確認する。

3)メーカが備えている予備検討用の設備を使って、実際に試運転を行ってみる。

この時、試運転担当者からのアドバイスや、設備への知識のレベルを確認して、設備導入後の課題対応力なども推し量る。

ことが大切でしょう。

<実際、設備投資が決まると、どこから情報を得たのか、設備メーカからアプローチが来ることもあります。が、上手い話には乗らないことです。>

 

特に、(私の経験では、)セラミック電子部品の焼成炉や、シート成形機は、各ユーザーで求める仕様が異なっていると推測され、種々のユーザー、様々な仕様への経験がある設備メーカであれば、豊富な過去の経験から「失敗の無い」備を提供してくれる可能性が高いと思っています。

 

・実際の失敗例として、

LTCC(低温焼成同時焼成セラミックス)含めて、セラミックス製品では、金属炭酸塩や金属酸化物である素原料紛を所望とする割合でボールミルによる湿式混合して、乾燥後、熱処理=仮焼(かしょう、または、かりやき、と呼ぶ)し、更にボールミル湿式粉砕後、乾燥することで、原料紛を作製します。

前記、湿式混合して、乾燥する装置としては、スプレードライヤーが一般的だったのですが、開発当初の生産場所の面積等の制約もあって、<新規な設備>である「媒体流動乾燥機」を導入しました。

(よくあることですが、)実験・試作レベルの量では問題は発生しなかったのですが、生産量(処理量)が増えてくると、乾燥後の塊を仮焼して、ボールミル湿式粉砕すると、粉砕不十分の粗粒が目立ってきて、結局、その粗粒の分離除去作業が必要となって、余分な工程を発生させてしまいました。その後、増産時には、スプレードライヤーに設備変更することで、余分な工程は無くすことができました。当初から<新規な設備>を導入しなければ、上記のような余分な検討・苦労は不要であったことは明らかです。

・当初の導入設備は良かったのですが、増設時の失敗例として、

セラミック多層基板、積層部品での焼成炉では、セラミックシートに含まれる有機バインダーを、焼成温度より低い温度領域で、熱分解・酸化させて除去させる必要があって、そのような構造となっています。

つまり、有機バインダーが熱分解・酸化されたガスを、炉外に排出する機能があります。ですが、排出するまでの配管などに、タール状となってデポしてきて、(水蒸気が結露するようなもの)生産量が増えれば増えるほど、定期的掃除など、これまた余分な作業が増えてきます。

焼成炉を増設する際、メーカ営業担当者から、タールを濃縮して除去する<新機能>を開発したので、今回の導入での新規採用を提案してきて、生産現場でも困っていたので、導入することにしました。

しかしながら、どうも新機能によって、炉外への排出するガスの流れに変化が生じてしまうようで、焼成後の製品品質にも悪影響を及ぼすことが明らかになりました。

結局、<新機能>を備えない、従来の構造に変更してもらって、一応、元の品質に戻すことができました。

現場での課題に対して、こうすれば解決できますよ!てな提案を設備メーカからされると、即採用したい、気分になってしまいますが、少し冷静になって、じっくりと、実績など調べて、かつ無視できない副作用はどうなのかとか、慎重に導入すべきだった例です。

新製品QCD(1)【新製品は実績製品で作る①】

先週3日間連続で特許に関して投稿したのですが、エネルギー不足にて、その後、継続をあきらめてしまいました。

 

本日から、新製品のQCDについて記していきます。

90年代の中頃、未だ「携帯電話」という言葉が一般的でなくて、「移動体通信」と呼ばれていた時代に、ある顧客からの提案で、全く新規に携帯電話用のセラミック電子部品開発が開始されました。幸いにも、お客様と、世界的に携帯電話が普及する時代に恵まれて、6年程度で、個数として1千万個/月、売上も5億円超/月のビジネスへと成長しました。

プロセスエンジニアとして、それまで類似製品の無かった新製品の、製造工程の設計、製造条件検討を担当し、開発当初から量産まで経験できたことは、技術者冥利に尽きると感謝しています。

QCD(品質・コスト・納期)は、それぞれトレードオフの関係とも見えますが、新製品開発~量産の経験から、適切なプロセス開発を進めることができれば、QCDは三位一体であるような感覚を持っています。

 

経験の中で、後から思えば、こうすべきであったことが多く、その辺りを記していきます。

時々、最初の選択は間違っていなかった、もあって、合わせて記します。

 

「新製品は実績製品で作る」の意味ですが、

新製品開発となると、外部から購入する素原料紛等の材料、そして製造設備なども、その時点での「最新」「最高」のもので検討を開始しよう!と思う気分となるかも知れません。

しかしながら、製品が「新」であると、開発を進めていくと、多数、種々の課題が発生してくるのですが、購入している材料や、製造設備自体の「実績があまりない」もので検討している場合、その課題が、新製品そのものによるものなのか、それとも、購入した材料や、製造設備によるものなのかを判断することが極めて困難となってきて、結局、迅速かつ有効な対策ができなくなる、こととなります。

つまり、

1)外部から購入する原料等の材料であれば、先行する?同業者等への納入実績が豊富なサプライヤーを選び、

2)かつ、生産が継続的に行われている型番・グレードを採用する、

ことがベターでしょう。

・実際の失敗経験としては、

原料紛でアルミナを大手メーカのS社から購入したことは良かったですが、カタログから、高純度で微粉のグレードを選んだところ、数年後に受注量減少によって、生産停止と決定されてしまいました。代替グレードでの検討を余儀なくすることとなりました(大変な工数がかかって、顧客から承認していただく必要もありました。)が、当初から、営業担当者より「継続的に安定製造されているグレード」の情報を得て、判断しておけば良かったのでしょう。

・うまくいった経験では、

内部配線電極材料として、銀Agペーストを選定した際、高品質かつ安定しているとの評判のS社を採用したのですが、こちらの技術情報等を開示した後、営業担当者から「であれば、少し用途は違うかも知れないが、某社向けに供給実績豊富なグレード」を紹介いただき、実験~生産でも良好な結果が得られて、継続的に生産に適用することができました。カタログの数値ではなくて、営業担当者からの、まじめな提案を受け入れたことが良かったのでしょう。

特許の重要性(3)【特許の初心者向け教材】

前回、前々回と、少し難しい、との印象の持った方もあるかと思います。
書店の知財(知的財産)関連の棚は多くの入門書、解説書があって、アマゾンで検索すると多数ヒットします。
私の一番のお勧めは、
特許庁ホームページで提供されている
「2019年度 知的財産権制度説明会(初心者向け)テキスト」
https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/2019_syosinsya.html
です。
初心者向けといっても、商標や実用新案も含めて、大変広~く、かつ実務(手続き様式など)も含めて網羅されているので、
Ⅰ概要編「第1章 知的財産権と産業財産権制度の概要」と、
第2章 産業財産権制度の概要、の「第1節 特許制度の概要」
のPDFをダウンロードして、読むことをお勧めします。
このテキストは、毎年、法律の改正などあればアップデートされていて、最新版が発行されています。
ですが、新型コロナの影響で、
「2020年度」分が、発行されていないようです。
例年、このテキストに基づいたセミナーが、全国各地で開催されるのですが、
来年度以降に期待しましょう。

特許の重要性(2)【知らないでは済まない他社特許】

前回、新製品でのビジネスを始めるのであれば、自社製品・技術を守ってくれる特許が無いと、ビジネスを継続することも難しい、ということを述べました。
他方、新たな自社製品・技術の範囲が、既に他社が特許出願(公開・登録)している場合、その対策が必要となります。
このため、「知らないでは済まない他社特許」ということになります。
通常、製造メーカ各社(の特許担当者、当該技術者・研究者)は、毎週、新たに関連する公開特許、登録特許をチェックすることを行っています。

SDI:Selective Dissemination of Information配信、機能とかと呼んでいます。
近年は、中国や欧米の外国特許でも同様に行っているところが多いでしょう。
各国特許庁のデータ開示がデジタル化し、オープン化されています。同時に特許データサービス会社が提供するサービスが、どんどん高度化していることに伴っていると思っています。

他社の公開特許が、自社技術の範囲に関わっているのであれば、時間的な猶予が、それなりにある(可能な対策メニューが複数ある)ので相応の対策が適宜可能です。
しかし、他社の特許が既に権利化(登録特許)されていて、その特許の範囲(特許公報の「特許請求の範囲」を登録後は「技術的範囲」と言います。)に入っていると思われる場合は、対策・対応が限られてきます。
つまり、ほぼ
①回避する:明らかに技術範囲に含まれない実施形態とする。
②特許権者(他社)に実施許諾してもらう。ライセンス契約等によって、実施許諾してもらう。
③特許が無効である主張(新規性が無い、とか進歩性が無いとか、など)ができる明らかな証拠(過去の特許文献や従来製品の解析結果など)を準備、揃えて、特許権者に交渉する。または(ダメの場合)、特許無効審判請求する。
に限られてきます。
実際は、容易に実施可能であれば①、現実的には、自社の「強い」(他社から見て欲しいと思われる、とか、もしかして範囲に入るかも?の)特許を他社に開示して、かつ③に有効な証拠も開示して、なるべく有利な立場での②の交渉、のように思います。

ここでも、特にクロスライセンスに至るレベルを目指すのであれば、やはり、自社の有力な特許(他社から見て欲しい、他社が制約される特許)がどれだけあるか、が交渉のキーとなります。

ということで、やっぱり自社特許出願が「先ず一番」「基本」ということが、言いたいこと!!です。
特許出願から、公開まで1年半ですが、その時、他社の技術者が、「やられた」「遅かった」と後悔するような特許出願を目指しましょう!

今は、どの国も先願主義なので、即(1番速く)出願することが重要です。(出願明細書に瑕疵<間違い>だらけだとダメですけど。。)

特許の重要性(1)【特許が無いと新製品でのビジネスもできない】

技術セミナー会社からご技術セミナー会社からご提案いただく講演テーマの一つとして、「特許対策」があります。
生産・製造ではQCDが大切ですが、自社が開発・生産を開始して、継続して事業を行うためには、自社製品・技術が特許で守られているか、つまり、他社が容易にまねること(コピーすること)ができないようになっているか、が大変重要です。
実際のビジネスが始まる前に、関連する重要な特許は、少なくとも出願がされていることが、その後、継続的にビジネスができるかどうかを決めると言っても大げさでは無いと考えます。私の経験、及び同様の事例が多くあることからの実感です。
きちんと、特許出願がなされていれば、後発に対しては大きな障害となります。もし、ほぼ同時期に競合が同様・類似製品でビジネスを開始し、更に、競合も特許を有していても、しっかりした自社特許があれば、少なくとも、クロスライセンス契約(それぞれが他社特許の権利範囲を入っていても、互いに許諾する契約)等によって、ビジネスを継続することは可能と考えて良いでしょう。(自社または他社が、独占的に製造販売を志向する場合、前記契約が成立しないこともゼロではありませんが、レアケースと想像しています。)
クロスライセンス契約に当たっては、市場の成長性や、特に他社が外国の場合は、それぞれの得意な、または実績のある各国市場での将来の競合性など、で判断されることが多いと考えます。
但し、「互いに許諾」と言っても、互いに無料・フリーと言う訳ではなくて、それぞれが持つ特許の質と量によって、弱い方から、強い方に、売り上げに対して〇%程度の使用料が支払われることが一般的であって、場合によっては、契約時にイニシャルの金額の支払いが発生したりします。また、〇%は業界(化学か鉄鋼かとか)によっても、相場が異なっています。
繰り返しになりますが、成功する新製品ビジネスは、有効な特許を質、量共に有していることとの相関は非常に強い、ように感じます。
逆に、特許が貧弱な(例えば、特許公開による技術開示を避けるために特許出願自体をほとんどしていなかった)場合は、思いもよらぬ特許権者から攻撃されたり、新規な仕様で、既に他社が特許を権利化していたりして、大変な苦労を強いられます。(実感です!)
提案いただく講演テーマの一つとして、「特許対策」があります。
生産・製造ではQCDが大切ですが、自社が開発・生産を開始して、継続して事業を行うためには、自社製品・技術が特許で守られているか、つまり、他社が容易にまねること(コピーすること)ができないようになっているか、が大変重要です。
実際のビジネスが始まる前に、関連する重要な特許は、少なくとも出願がされていることが、その後、継続的にビジネスができるかどうかを決めると言っても大げさでは無いと考えます。私の経験、及び同様の事例が多くあることからの実感です。
きちんと、特許出願がなされていれば、後発に対しては大きな障害となります。もし、ほぼ同時期に競合が同様・類似製品でビジネスを開始し、更に、競合も特許を有していても、しっかりした自社特許があれば、少なくとも、クロスライセンス契約(それぞれが他社特許の権利範囲を入っていても、互いに許諾する契約)等によって、ビジネスを継続することは可能と考えて良いでしょう。(自社または他社が、独占的に製造販売を志向する場合、前記契約が成立しないこともゼロではありませんが、レアケースと想像しています。)
クロスライセンス契約に当たっては、市場の成長性や、特に他社が外国の場合は、それぞれの得意な、または実績のある各国市場での将来の競合性など、で判断されることが多いと考えます。
但し、「互いに許諾」と言っても、互いに無料・フリーと言う訳ではなくて、それぞれが持つ特許の質と量によって、弱い方から、強い方に、売り上げに対して〇%程度の使用料が支払われることが一般的であって、場合によっては、契約時にイニシャルの金額の支払いが発生したりします。また、〇%は業界(化学か鉄鋼かとか)によっても、相場が異なっています。
繰り返しになりますが、成功する新製品ビジネスは、有効な特許を質、量共に有していることとの相関は非常に強い、ように感じます。
逆に、特許が貧弱な(例えば、特許公開による技術開示を避けるために特許出願自体をほとんどしていなかった)場合は、思いもよらぬ特許権者から攻撃されたり、新規な仕様で、既に他社が特許を権利化していたりして、大変な苦労を強いられます。(これも実感です!)